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今回の計画地の新庄地区は
時間と風土が織りなす繊細な織物のように
歴史と自然が静かに重なり合う場所である.
ここでは人々の営みが、
季節の移ろいとともにかたちを変え
古きものと共に息づいている.
文化とは単なる記憶ではない.
生きられる風景であり
語られる空気である.
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この地を象徴する「新庄の長溝」は
構築というより
“耳を澄ますこと”から始まった風景である.
庄屋・岩政次郎右衛門は
干ばつに喘ぐ村の沈黙に応え
地形に沿って水の道を刻んだ.
水は流れるだけでなく
祈りであり構造であり村の心を内側から潤した.
今もなおその用水は
風景に沈殿する時間のように静かに脈打っている.
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その水音の中
梅雨明けの空の下で家が建ちはじめる.
棟が上がるとは
地と天を貫く意志が立ち上がること.
柱は天を支えるのではなく
空を受け取る準備をしているようだ.
土地のわずかな癖が
垂直や水平に揺らぎを与え
光と風の通り道をかたちづくる.
直線は緩み、折れ
視線はゆっくりと遠くへと抜けていく.
中庭には空が降り
光や雨、影が季節とともに満ち引きする.
家は内と外を区切らず
にじませ融かし編み直す.
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家族という存在もまたその揺らぎの中にある.
構造のようでいて流動的.
空間とともにほどけ、結ばれ
季節のように変化していく.
建築とは風土に耳を澄ませ
時間に応答しながら
生きる場を紡ぐことなのだろう.
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