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蛇王神社にいく

今年は乙巳

干支のめぐり六十年に一度だそうだ.

知らなかった.

知らなくても足は動いた.

その重みを知らぬまま

撮影の帰途ふと足をとめた.

寄り道だ.

寄り道はたいてい正しい.

陽は高く

だが木々の間をすり抜ける影が

まるで水のようにやわらかく

体を包んだ.

ふと立ち寄ったのは

丘の上にひっそりと息づく

森に抱かれた神の座.

そこに神社がある.

名前は聞いたことはなかった.

地図にもたぶん小さくしか載っていない.

だがそこに存在する.

空間が結界をつくっている.

鳥居も石段も自然も

ひとつのからだのように繋がっていた.

祭神は白龍大神.

白蛇を従える.

いや白蛇こそ神の貌(かお)か.

蛇とはなにか.

地を這い姿を変え

脱皮し再生するもの.

それは大地の記憶であり

人の恐れであり

希望の形代でもある.

神社とは建築か?

いやそうではない.

人間が自然に向けて開けた小さな穴

その穴のなかから、

なにかがこちらを覗いている気配さえ感じる

ただの寄り道が記憶の地層に爪を立てた.

そういう日もある.

そういう年だったのかもしれない.

水平線にひらく

四万十で撮影

終の住処としてこの地に身を運んだ.

広大なる太平洋

屹立する山々

その狭間に突き出た高台に

ひとつの「いえ」を据えた.

素材は語る.

光が応える.

それらは空間のなかで響き合い

ひとつの舞台をつくる.

かたちには理由があり

素材には時間が宿る.

スケールは揺らぎ

秩序はそれらを優しくつなぎとめる糸となる.

そしてある朝

空がにわかに染まり

風がささやく.

ここがわたしたちの居場所だと.