江田島での打合せの帰り
高速道路が通行止めになっていた.
やむなく海沿いの道を走り
途中で竹原に立ち寄る.
思いがけない寄り道だったが
その静けさはどこか必然のようにも感じられた.
竹原と倉敷を歩くと
町並みとは建築の集合ではなく
時間が設計した都市空間であることに気づく.
竹原は塩づくりの営みから生まれた商人の町だ.
暮らしの延長として建築が建ち
その連なりが静かに残った.
軒の高さ、瓦の光
格子の奥の気配までが穏やかに揃い
町全体がひとつの建築のように感じられる.
そこにあるのは「住むための美」
語りすぎず、整えすぎない余白が
空間に深さを与えている.
一方、倉敷は物流が骨格をつくった都市である.
運河に沿って白壁の蔵が並び
視線は遠くへ抜ける.
構成の意志がはっきりとした
見せるための風景だ.
倉敷が「構成の美」だとすれば
竹原は「余白の美」
都市デザインとして完成された倉敷.
時間が静かに沈殿した竹原.
建築の強さとは形の新しさではなく
時間の中でなお静けさを
保てることなのかもしれない.
畦地遺跡に呼び込まれるようだった.
風が先に通り地面は何も語らずそこにある.
その場所に立つと、ただ「ここだ」と思えた.
建築はときどき人の意思より先に場所が選んでいる.
「初神の家」の請負契約を終えた.
けれどこれは始まりではなく
静かに続いてきた時間が
ようやく輪郭を持った瞬間なのだと思う.
打合せを重ねるたび
かたちは少しずつ整っていった.
ろくろの上で土が器になっていくように
急がず、抗わず.
強すぎれば崩れ
弱すぎれば立ち上がらない.
建築もまた力の加減の中にある.
設計者、つくり手、住まい手.
誰か一人の仕事ではない.
歩幅をそろえ
ときに乱しながらも
不思議と前へ進んでいく.
遺跡のそばに建つからといって
特別なかたちは求めない.
時間の層にそっと重なり
昔からそこにあったかのように佇むこと.
遠い過去を渡ってきた風が
静かに軒下を抜けていく.
そんな家になればいいと思う.
ろくろを離れた器が
乾き、焼かれ
やがて手に馴染んでいくように
この家もまた
暮らしの中で少しずつ
完成していくのだろう.
畦地遺跡に見守られながら
今日もまた一歩.
ここにたどり着くまでに四年.
ともに探し、迷い
ようやく出会った場所だった.
当初は巨大な擁壁を築き
水平な基壇の上に建築を据える計画もあった.
だがそれは土地が長い時間をかけて
形づくってきた地形を断ち切ることになる.
自然を整えることと壊すことは紙一重だ.
だから私たちは地形に逆らわず
できるだけ法面を生かす設計へと舵を切った.
建築は土地に抗うのではなく
その延長としてそっと置かれるほうがよい.
風の通り道を残し
水が還る余白を確保する.
すると建築は「建てる」というより
土地に静かに持ち上げられる存在になる.
確認申請を提出してから
まもなく半年が過ぎようとしている.
建築の時間はときに驚くほどゆっくりと進む.
しかしこの土地に堆積した時間に比べれば
その遅さはむしろ自然な歩幅なのだろう.
先日地鎮祭を執り行った.
祝詞が響くなか
この建築を土地に差し出し
同時に土地から許しを受け取ったような気がした.
やがて現れる建築が
以前からそこに在ったかのように
風景へ溶け込むなら
この時間のすべてが
必然だったとわかるだろう.
建築とは土地と時間のあいだに
結ばれる静かな約束なのだ.