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棟上げの合間に白壁の町並みを歩く.
柳井の古市・金屋地区は
白壁と格子戸が連なる静かな時間の器である.
江戸末期から明治の町家が約200メートル
道に沿って呼吸をしている.
瀬戸内の光と影が軒先を撫で
商いの声なき余韻が今も残る.
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夏には「金魚ちょうちん」が赤く町を染め
空気に浮かぶ記憶のように揺れる.
これは祭りではなく
暮らしが風物に昇華した結果なのだろう.
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戦火を免れたこの町は
長州の片隅で静かに維新を支えた.
商人たちは変わる時代を見据えつつ
変わらぬ風土に根を張った.
壁の白さはそんな覚悟の名残かもしれない.
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そして今回の計画地である山際の新庄では
時間が層を成し風土が沈黙を紡ぐ.
そこに刻まれた「新庄の長溝」は
岩政次郎右衛門が未来に向けて掘った祈りの溝だ.
7キロの水の道はただの用水ではない.
土地を潤し人の営みによりそう
静かな意志の構造体だ.
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文化は建てられるものではなく積もるもの.
柳井の白壁も新庄の水路もその証である.