多島美

十五坪の宿の長屋計画

小さな、実に小さな空間である

だけど人は狭さを憂うばかりではなく

その狭さにこそ心の自由を見出すこともある

ここは生口島の島の中腹

瀬戸内の静けさに包まれ

時に忘れられたかのようなところである

この地はかつて海の道を見張る者たちの拠点だった

村上水軍、ただの海賊ではない

秩序と混沌のあいだで海の暮らしを守り続けた者たち

その眼差しが注がれた瀬戸内の島々が今静かに佇んでいる

多島美とはよく言ったものだ

島と島とが折り重なり海と空の境界がほどけていく

その風景にかつての文人も旅人も

そして今を生きる我々もまた

心を奪われずにはいられない

蕪村も子規も詠んだこの海

「海と空 わけても青し 瀬戸の春」

言葉は時を越え

風景と交差し

この宿の窓辺にも静かに降りてくる

十五坪の暮らしは喧騒を離れた贅沢であり

風と光の遊び場である

瀬戸の島影とともに暮らす

そんな時間がここには確かに息づいている

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