(日本語) 松並木の家

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「松並木の家」
 
空を見上げる。
果てがない。
それは単に大きいからではない。
空には時間が沁みている。
わたしたちが知るはるか前から、風が、通り声が巡ってきた。
 
ここは吉備津神社。かつて温羅が棲まい吉備津彦がその地を鎮めたという。鬼が悪で人が正義という単純な物語ではなく、戦いのあとに神話が生まれ神話のあとに社が築かれ、社のあとに道ができ松が植えられた。それが今この参道である。その時間の堆積に今またひとつの「建築」を挿入する。それは歴史に抗うことではない。むしろ歴史と呼吸を合わせること。過去に接続しながらなおも「これから」の生活が芽生える場所。この家はそうした意図で生まれた。
 
敷地は素直ではなかった。けれど素直でないことは決して否定ではない。かえってかたちを選ぶ自由がそこにあった。変形した土地に細長いボリュームを沿わせ、交差する点にエントランスを据える。それは訪問者との結び目であり、またアトリエや外部空間との呼応の場ともなる。「わかりやすさ」とは、単に目に見えることではない。思い入れがかたちとなるとき輪郭は自然と現れる。しかしそこに沈まず距離をたもちながら、町と神話と暮らしと静かに交わる装置としてこの家の入口は立ち上がった。
 
松並木は語る。
古代と今とを枝の影のなかで結びながら。
この家もまたその語りのひとつとなってほしい。
建築が一瞬の通過点であるとしても、
通過点にしかない光があるのだから。
 
 
所在地:岡山県岡山市
竣工:2019年9月
用途:専用住宅
構造:木造平屋建
敷地面積:360.87㎡
建築面積:109.54㎡
延床面積:104.57㎡
写真:野村和慎