南内町の家
Posted on August 18, 2024

「浮遊する静寂」
所在地:徳島県徳島市
竣工:2024年7月
用途:専用住宅
構造:RCラーメン構造+木造軸組構造 2階建
敷地面積:487.45㎡
建築面積:131.89㎡
延床面積:196.75㎡
写真:野村和慎
徳島市の中心部にほど近い場所、南には新町川が静かに流れ街のざわめきが次第に遠のく。そんな静かな市街地の一角にその家はそっと姿を現す。道から見上げると重厚なコンクリートで構成された1階部分の上に、まるで宙に浮かぶように軽やかな木造の2階がのっている。その対比は視線を自然に引き寄せ、見る者の心に静かな緊張感を宿す。玄関へと向かうアプローチは軒下に広がる植栽に囲まれた半屋外空間。コンクリートの硬質な質感と緑の柔らかさが調和し、外と内の境界があいまいになる。足元に敷かれた石畳を一歩ずつ踏みしめるたびに、風の音や葉擦れのささやきが耳に届き、喧騒から離れた静寂の世界へと心がゆるやかに導かれていく。1階の奥にひっそりと佇む和室は、まるで呼吸するように静けさをたたえている。コンクリートに囲まれながらも畳や障子といった自然素材が柔らかく空間に溶け込み、陰影が壁や床に静かな模様を描く。障子を透かして届く光は、時の流れを忘れさせるほどに穏やかで空間そのものが“静寂”という名の形を宿しているようだ。
階段を上がると木の香りとぬくもりに満たされた2階が広がる。宙に浮かぶような構成が物理的な軽やかさだけでなく精神的な開放感をもたらす。中央には中庭が設けられ、周囲の視線を遮ることで都市にありながらも自然とひとつになれる時間が流れる。大きなガラス窓を開け放てば風と光がやさしく室内を巡り内と外が溶け合うように一体となる。この家は、都市の利便性と自然の静けさを包み込む、静かな器である。コンクリートの重厚さと木のやわらかさ、陰影と光、閉鎖と開放、内と外——相反するものが絶妙なバランスで共存することで、「浮遊する静寂」とも言えるような空気が生まれる。そこに住まうことで日常が静かに呼吸を始め、心は自然と整えられていく。まるで暮らしそのものが建築とひとつになってひそやかに浮かんでいるかのように。